吉祥寺駅 7月 昼頃
海がきこえる
石神井 8月 午前
羽田空港
ぼくと松野が初めて里伽子と会ったのは、おととし、高校2年のときの、やはりこんな真夏の日だった。
高知 2年前の8月 昼すぎ
その日、バイト先に松野から電話があった。
版前見習い おらバイト、さっさと洗えよ、どんどん来るぞ
拓 はーい
おかみさん 拓、電話ぞね
拓 あ、すみません
拓(OFF) もしもし
松野の声 杜崎?
拓 ああ、松野か
松野の声 今日、バイト早番やったろ、すぐ学校に来(き)いや。今、講習終わったんけれどおれ、まだ学校におるき
拓 わかった
拓 すみません。やっぱり今日、急用ができて、午後は手伝えませんき
おかみさん ちょっとお!待ちや
拓 お先に失礼しまーす
板前 これやき、ガキは当てにならん
板前見習い ふう―
拓 お先―
学校
拓 松野
松野 えらい早かったやか
拓(OFF) なんぜ、人を呼びだして
松野 ちょっと来てみいや
拓 誰や、あれ……よう見えんちゃ
松野 今度、おれのクラスに編入してくる女子やと、武藤里伽子っていうがよ
拓(OFF) 今度って、2学期から?
松野 ああ
拓 珍しいな、高2で編入ちゅな、あんまり聞かんけんど
松野 けど入って来るがいき。それも東京のコやぞ
さっき担当の小杉に頼まれて、おれが校内を案内してきた
拓 ああ、松野、クラス委員やもんな。おまえ、なんや興奮しちょらんか?
松野 興奮するよ、そりゃ。武藤すげえ美人やきに
拓 へえ……
拓 見えへんやか。職員室に乗り込んでいくわけにもいかんろが
松野(OFF) その気があんなら、質問がありますとかなんとか言うて、職員室行ってもええで。おまえ、ついてくるか?
拓 えいえい。そこまでせいでも。職員室には行きとうない
おれが夏休みの講習ひとっつも取らんとバイトしゅうがァ、先生らァみんな知っちゅうしの
松野 おまえ、中学の修学旅行のこと、まだこだわっちゃうがか
拓 こだわっちゃあせん。けど、中3のときはいきなり中止にしちょいて、高校の修学旅行で、どうや、ハワイや。これやったら文句ないやろっちゅやり方が気にくわん
松野(OFF) ハワイに行くがはみんな喜んじゅうし、学校はうまい具合に生徒を操っちゅうで
松野 ハワイでリフレッシュして、高3の1年間は受験に集中せいよ言うて
拓(OFF) ハワイに行くがは金がかかるき、しっかりバイトせんとな
高等部 二年生諸…
本年度修学旅行の… 左記のとおり決定す…
自 3月 6日
至 3月 10日
行先
ハワイ․オハフ島
松野 つまらんところで意地張って、この講習で差ついたらあほらしいぞ。ちゃんと勉強しちょけよ
拓 ああ。ところで今日はどうしたがな
なんぞ、相談ごとでもあるかが?
松野 いや……ちょっとおまえに話しとうなってな……
拓 自転車取ってくるき、門のところで待っちょって
松野 ああ
中等部高等部の6年間を通じて、松野とぼくは一度も同じクラスにならなかった。
それにも関わらず、ぼくは松野を親友だと感じていた。
ことのおこりは、中等部3年のときに、京都行き三泊四日の修学旅行が突然中止になったことだ。
中3の拓のクラス
校長の声 突然ですが、今年の中等部3年の修学旅行は中止になりました。なお、今後は中等部、高等部を通して、修学旅行を一体化しようと思っています
校長の声 去年の進学率で、わが校はとうとう県立第一に抜かれてしもうた
校長の声 父兄のみなさんや、立派な伝統を支えてきて下さった先輩たちに合わせる顔がない。名誉挽回のためにも、今期はぜひ高等部3年のみなさんにがんばってもらいたい。でなければ、今の中等部3年の犠牲が無駄になってしまいます
生徒A おい、あとでサヤマのとこ行かないか。おい拓
拓 ああ
あまりのバカバカしさに、クラスの有志で担任に抗議することにした。
拓(OFF) えと……なんか納得できんのです。……修学旅行やめたくらいでみんなの成績があがるとも思えんし……
拓 ちゃんと説明がなかったき……みんな不満に思いゆうと思います
ドン!
川村(OFF) そんなセリフは、全国謀試で100番以内に入ってから言え!
拓 ぼくはこの前、89番でした
女教師 くすくす
川村 おんしゃら!!
川村(OFF) 狭山先生が女だと思うてバカのしゅうがやないのが!
抗議の子とはそれっきり立ち消えになると思っていた。
ところが、それから1週間後の朝礼のとき―
川村 え―……中等部の修学旅行の決定は、父兄会でも承認をもろうてある。一部の生徒が騒いじょうるようじゃけれど、学校としてもきちんと説明いたい思うちょる
川村 不満のある生徒を確認したいき、今、ここで挙手をするように
それが松野豊たった。
川村 よろしい。手を上げた生徒にはきちんと説明会をするき。放課後、美術室に集まること。以上。
美術室 夕方
説明会は延期です。
用紙に氏名․組と修学旅行中止についての意見を書くこと
3年 3組 杜崎 拓
修学旅行の中止は意味がなく先生たちや親の気休でしかないと思う。
松野 さっき階段のとこで、山尾らぁに会(お)うたぞ。
松野 杜崎君にすまんと言うちょってくれやと、許しちゃれよな
拓 ばっかやにゃ
松野 豊
3年 4組
中止のやり方は一方的で納得できません。
ぼくはこの学校を卒業してから十年後二十年後にこのことを思い出して、やっぱり先生たちのやり方は不当だったと思うとおもいます。
拓(OFF) すごいなあ……松野は10年後、20年後のことを考えちょるがか
それ以来、ぼくの中で、松野がいる場所はいつも、ほかの連中とはちょっとちがっていた。
松野 こいつ、4組の杜崎拓
松野 こちら、今度うちのクラスに編入する武藤里伽子さん
里伽子 じゃあたし、これで
2学期からよろしき
拓 おまえ、はやナンパかや?
松野 え、ちがうちや。金誠堂はどこかってきかれたがよ。教科書がきちゅうはずやき、取りに行くがやと
拓 ふーん
拓 ほんで、そのバイト先の板さんちゅうがバリバリのゾクあがりらしいんじゃ
拓 ときどき昔のくせが出おって……
拓(OFF) タバコ吸うときなんぞ、ついしゃがみこんだり…
松野 ふうん…
拓 ……どうしたが?
松野 なあ、こんな時期に転校してくるらち、なんか事情があったがやろうか
拓(モノローグ) そうか、そういうことだったのか。ぼくは、松野がぼくを呼び出した本当の理由に気づいた
拓 そやねえ、親父さんの転勤とか、そういうがじゃないろうか
バン!
バン!
松野 じゃあな
松野が里伽子に魅かれているのを知って、ぼくは理不尽に腹だたしかった。
やめちょけや、女はどうせ男の表面しか見えんがよ。女なんぞにおまえのよさ解りゃあせんか、と。
校庭 9月 昼頃
新学期が始まって、里伽子はぼくら純朴な地方のガキたちの間に、ちょっとした旋風をまきおこした。
香川 おい杜崎。女子の方見てみ、ええぞ
拓 ん?有賀やろ
拓 すごいがは、わかっちゅう
香川 違うちゃ!奥のコート!
拓 ん?
パコーン!
拓 かっこえいちゃ
香川 テニス部の芹が子供あつかいじゃ
男生徒だち(OFF) カッコよかったにゃ、武藤、あれは相当の腕前ぞ、本格的にやりよっだがぞ。やっぱり東京もんは打ち方違うちゃ
派手やなあ。それに、ええ脚しちょった。けんどあのタイプ、相当気ぃが強いで
拓 あの武藤っちゅうやつ、目立ちすぎじゃ
松野 目立ちすぎっちゅうこたァ、ないろう
拓 おい、松野
拓 うわっ
松野 すまん。武藤が、今クラスで浮いちゅうがは。やっぱり、いろいろ目立つきかなとかおもいよったもんやき
拓 ふーん、浮いちゅのか
松野 浮いちゅう、いろいろ
拓 ふうー
9月 朝
12 武藤里伽子
拓 いきなりゴボウ抜きの12番!
山尾 スポーツも勉強もできるスーパーウーマンか…… えーと、拓は……
拓 92番
山尾 お前の中学の頃は神童や言われたにな
女生徒A なに、あの態度
女生徒B えばっちゃって
清水 やめや。そんなこと、いわれん
授業始まるぞね
山尾 どうしたんじゃ?武藤に見とれちゅうがか?
拓 いや……なんかあいつ、あんまり幸せそうやないなあ思うて
山尾 何言うんじゃ、12番ぞ、12番!
杜崎家 夜
拓の母(OFF) あんたの学年に武藤さんゆう子、編入してきたがやって?
拓(OFF) うん……なんで?
拓の母 えい成績らしいねえ。やっぱり東京の子はできるがやねぇ
拓 なんでそんなこと、知っちゅうが
拓の母(OFF) 農協の寄り合いで聞いたがよ。針木で有名なあの武藤果樹園の武藤さんの妹さんやと。その里伽子さんのおかあさんが
拓 ふうん
拓の母(OFF) 家庭の事情でこっちに帰ってきちゅうがやと、里伽子さんと、その弟さんつれて
拓 家庭の事情、離婚したがかなあ……武藤のおやじさん、今も東京におるがやろうか……
拓の母 どうやろうねえ
拓 ごちそうさん
拓の母 敦、あんたどうしてそう汚い食べ方するが
拓 武藤もかわいそうじゃな。あればぁ成績がよかったら、どうせ東京のほうに進学するがやろうに
親の都合で、子供はムゴイもんじゃ
拓の母 どういうもんじゃないわね。母親やったら、子供も一緒に連れて行きたいもんぞね
拓 どうしたが、そんなに怒ることかえ?
拓の母 いろいろあって実家に帰るゆうがは大変じゃき。そんなときに受験がどうのこうのって子供を残しちょけるもんかね。何があっても一緒に連れてくらあね。そういうものながよ
拓 ふうん……実感じゃん
拓の母 あんた、武藤さんってコに親切にしてあげなさいよ。慣れんとこきて、いろいろ大変やろうき
拓 へーへー
拓の母 拓!拓!電話ぞね!
拓 はーい
拓(OFF) もしもい……ああ、松野か………おう、どうしたか?
松野(OFF) いや……
拓 なんな?
松野(OFF) うーん。別に電話するばのこともないけんど
拓 あ?
松野(OFF) 今日、武藤んとこへ行ってきたぞ
拓 え?武藤の家か?
松野(OFF) 武藤、今日風邪で休んだき、下宿してひとり暮らしって聞いちょったき、大丈夫かなと思うて
拓 下宿しちゃうがか?針木いうたら通えん距離でもないになあ
松野(OFF) うん
拓 で、見舞いに行ったんか?ひとりで
松野(OFF) うん。……ほいたらな、武藤、ひとりで寝よった
拓 寝よった……で?
松野(OFF) それだけやけど
拓 うん……
松野(OFF) ……それだけや
拓 うん……
拓(モノローグ) ああいう子がえいがか……松野は
ハワイ 3月 昼
年も明けて3月。待ちに待ったというよりも待たされた、修学旅行がやってきた。
男生徒C 杜崎!どうした?海へ行かんがか?
男生徒D 明日は高知じゃきの
拓 なんや、朝から腹の調子が悪うてよ
男生徒C かわいそうやにゃあ、ほいじゃ
男生徒D じゃあ
そして、この因縁の修学旅行は、最後までぼくに祟ることになった。
里伽子 杜崎くん、お金貸してくれない?
拓 金……?
拓 どうしたがじゃ、金、使いすぎたがか?
里伽子 うん、いえ、あのう……
里伽子 あのね、持ってきた全財産、落しちゃったみたいなのよ
拓 な……そりゃ大事じゃんか
拓 センセに連絡したがか?トラベラーズチェッカやったら、すぐ連絡したらなんとかなるらしいぜよ
里伽子 叱られるの、いやなのよ
拓 何言うちゅうがちゃ。ちゃんとせにゃいかんぞ。金は大事だがぜよ
里伽子 ふふ……
ごめんなさい。土佐辯のイントネーションて、ちょっと時代劇みたいね
ねえ、すわらない?
あたしも混乱してたのよ。ちゃんと説明するわね
お金はほとんど現金で持ってきてたの、トラベラーズチェックはめんどうでしょ?だから……
拓 現金っち、ドルのか?
里伽子 そう。ドルの現金。400ドルくらい。全然使わないうちに見当たらなくなったのよ
拓 全部現金で持ってくるのがいかん。現金は2万円以内ちゅうことやったろう
あとの3万はトラベッラーズチェックにしろって、言われちょったろうが
里伽子 そんなの誰も守ってないわよ!
なあに?まるで先生みたいなこと言うのね。杜崎くんて、そんな優等生だったの?聞いた話と全然違うわ。がっかりよ
拓 東京辯て、なんやケンカ売りゆうみたいやな
里伽子 え?なに、それ。あたし、ケンカなんか売ってないわよ
拓 うん。ぼくも時代劇の俳優じゃない
里伽子 杜崎くんて、けっこう意志が悪いわね。ケンカ売ってるなんて言われたの初めてよ。わたいのしゃべり方、そんなふうに聞こえる?
拓 うん。みんなもそう思いゆうがぞ。なんちゃー言うてこんのは、へんなこと言うたら、時代劇みたいちゅうて笑われるきゃ
里伽子 もうやめてよ
あたしが悪かったわ。別にバカにしたんじゃないのよ。でも、ドラマなんかでわざと地方の言葉使うのあるでしょ。ああいうの、現実にはもうないと思ってたんだ
なのに高知に来たら、みんな平気で喋ってるんだもの、びっくりしちゃった。でも、時代劇って言ったの、今が初めてよ。そう思ってたけど誰のも話してないわ
拓 うん。そのほうがえい
里伽子 うん……言葉ってやっぱり大切だわ。耳になじむまで、相手が何言ってんかわかんないんだもん
何度も聞き返したりしたら、すっかり嫌われちゃったみたい
拓 嫌われた、誰に?
里伽子 クラスの人。特に男子が、ぜんぜん口もきいてくれないの
クラス委員の松野くんは別だけど。あの人、親切ね
拓 うん。松野はええやつじゃ。武藤は、ぼくのこと、松野に聞いたん?
里伽子 うん。冬休みに、帯屋町のお料理屋さんで、エプロンして、働いているの見かけたのよ。一緒にいた松野くんが、あいつはよく働くなって言ってたわ。それでいろんなこと聞いんたのよ。中等部の頃の反抗ぶりとか、ふたりきりの説明会とか……
拓 そんなことまで話したん
里伽子 ねえ!夏の冬もバイトして、お小遣いたくさん持ってきてるんでしょ?
拓 いくらいるが
里伽子 いくら貸せそう?
拓 円で6万円と、ドルじゃと400ドルばぁかな。まだ全然使っちゃあせんし、300ドルばぁ貸してもえい
里伽子 ほんと!?じゃあ6万円のほう、貸してくれない?
拓 な……
拓 ここで待っちよれ
拓 6万やと!
里伽子 ごくろうさまでした。杜崎さま。
拓 金、どうする?ここで渡すがか?
里伽子 杜崎くんって用心深いのね。じゃ、そこの椅子に座ってよ
里伽子(OFF) お金、このハンカチにくるんで、ハンカチごとあたしのちょうだい
拓 なんや、ヤバイ取引きやりゆうみたいやなあ
里伽子 日本に帰ったら返すけど、すぐってわけにはいかないと思うの。アテはあるのよ。でも、すぐじゃないの
拓 まあ、いつでもえいちゃ
里伽子(OFF) このこと、誰にも言わないでくれる?
拓 ん、けんど、なんで?
里伽子 ママに知れたら、叱られるからよ。
拓 ママ……
拓 なんぜよ、あいつは
松野 よう
拓 あいつ……ぼくのこと知っちよるき、たまけたぜ……おまえら、仲良さそうやんか、デートしたんやてな?
松野 デートじゃないよ。冬休みに帯屋町でばったり会(お)うたき。ダメモとで映画誘ったらすんなりとOKで、こっちのほうがびっくりしたぞ。何話してえいかわからんし、おたおたしよったら……
おまえがバイトしよう店の前通ったき、ついおまえの話をネタにさせてもろうた。助かったぞ
拓 そのネタのおかげで、いま借金申し込まれたんぞ
松野 借金て、武藤が、おまえに?
拓 うん。小遣い落したがやと。ほんで、ぼくが通りかかったき、バイトでがっちり稼いでたの思い出したがじゃろうの
松野 へえ、小遣い落したがか、そらむごいね。ふう―― ん
なあ、街でもぶらつかんか?
拓 えいにゃあ
松野 ほんなら、水着、部屋に置いてくるき、ちょっと待っちょってくれや
拓 ふん……
拓 ん……おう
里伽子 誰にも言わないでって言ったのに、もう松野くんにしゃべっちゃったのね!
拓 え?松野がなんて?
里伽子 お小遣い余ってるから貸そうかって言ってくれたのよ
拓 へえ、やっぱりあいつ、ええヤツやろ?
里伽子 2万円借りたけど……もう他の人には言わないでね!ほんとに困るわ!杜崎くんて、男のくせにけっこうお喋りなのね
拓 なんぜよあいつ、どういう育ち方しちょるんじゃ
翌日、ぼくたちは高知に帰り、須田というやつが隠し撮りした里伽子の無防備な写真をぼくは腹いせのつもりで買った。
それで里伽子への反感は忘れたつもりだったのに―
高3のクラス替えで、ぼくと里伽子は同じクラスになってしまった。
学校 4月 昼
里伽子 裕美、お辯当
小浜 うん
里伽子にも友だちができた。
同じクラスになった小浜裕美という、どちらかといえば目立たない娘で―
杜崎家 四月末 朝
まあ、それはいいのだけれど、ゴールデンウィークになっても里伽子はあのお金を返さなかった。
まるで忘れてしまったみたいに……
拓の母(OFF) 拓、電話ぞね。小浜さんゆうコから
拓 よう、小浜か?公衆電話なんか、これ
小浜(OFF) 杜崎ィ、あたしどうしたらええか、もうわからんなった
拓 どうしたん
高知空港
小浜 今日、里伽子とね、一緒に大阪のコンサート行って、むこうで2泊してくることになっちょったが。それやに空港へ来たら、里伽子ゆうたら本当は東京に行くって言うが。最初からそのつもりやったがやと
小浜 今、あたしトイレに行くゆうて、電話しゆうがやき
拓(OFF) なんだ、それ
小浜 2泊して帰ってくるのは同じやき、えいやんかって、里伽子は言うけんど
小浜(OFF) もう里伽子、東京行きの切符も2枚買うてあるゆうし。あたし、母さんに嘘つくことになるもん
拓 落ち着けや。なにも一緒に行くことないやろ。行かんて言うて武藤ひとりほっちょったらええんじゃ
小浜(OFF) けんど、里伽子のお母さんも、あたしが一緒やきOKしたがやと。だから絶対一緒に行ってくれて。ねえ、どうしたらええ?
拓 どうしたらええっち
拓 ちょっと待ちや。どうしてぼくに聞くが、そんなことを
小浜 だって里伽子。飛行機代とか、杜崎にお金借りてきたって言うやんか。そんなに親しいんなら、里伽子説得できるろう? ねえ、杜崎、空港へ来てェ。あたしらの乗る便、11時半やき、まだ1時間半もあるき
小浜(OFF) お願いね。絶対来てよ
拓 あのカネか……!
拓(モノローグ) ハワイでカネを落したき、かしてくれ言うちょったんは、みんなウソじゃ。今日のための準備じゃったんか。まっこと、人をばかにしおって、ええかげんにせい、ちゅんじゃ!
小浜 杜崎!!来てくれたが
拓 武藤は?
小浜 今、トイレ
小浜 今朝から具合がようないがやと。このまま体調くずして、旅行取りやめにしてくれたら助かるがやけんど
拓 とにかく、武藤のやることはムチャクチャじゃ。おまえも友達なら、説教のひとつやふたつ、ピシッと決めてみいや
小浜 でも里伽子どうしてもパパに会いたい言うし、かわいそうやなとか思うて……
拓 パパッて、おやじさんのことか!?
里伽子 なによ、どうしてこんなところにいるの?
裕美が連絡したの?
小浜 ねえ里伽子、こんなウソついて行くのやめよう。ちゃんとお母さんに言うてから
里伽子 ママは絶対に行かせてくれないわよ。だから、ずっと前から準備してたの
拓 まあ待ちや。じゃあ、こうせーや。小浜、家に電話してな、空港でえらい気分が悪うなったき、もどるって言え。
小浜 え、けんど……
拓 ほんで、武藤もえらい心配しちょるけんど、コンサートチケットもったいないきにひとりで行ってもらうことにしたちょうて
拓(OFF) 小浜の親も、なんやかんや言うたち小浜が心配なだけじゃき、武藤のことまでイロイロ言わんろう
小浜 そうよね。うちのお母さん、里伽子のお母さんのことしらんし。絶対、告げ口なんかせんき
里伽子 いいわよ、それで
小浜 電話してくる
拓 小浜もお嬢さん育ちじゃの。発想転換して、東京で遊んでこうちゅう気にならんとこがエライちゃ
拓 ふう……おまえ、体の具合ようないんやて?
里伽子 あたし、生理の初日が重いの。貧血おこして寝込むこともあるのよ
拓 寝込むんか
里伽子(OFF) 男の人はわからないでしょ、どうせ
拓 ……おまえ、どうしても行くがか
里伽子(OFF) 借りたお金はパパからもらうわよ。ちゃんと返すから心配ないでよね。
拓(OFF) ……おまえ
ひとりで行くんが不安じゃったら、ぼくも一緒にいっちゃろか?
里伽子 ほんと? ほんとうにそうしてくれるの?
機内
拓 なあ、おい
里伽子 ん?
拓(OFF) おまえが行くの、おやじさん、ちゃんと知っちゅうがやろ。羽田に迎えに来ちゅうんか?
里伽子 来てないわよ、きっと
拓(OFF) おやじさん、ぼくの泊まるとこ、紹介してくれるろうか
里伽子 もちろんよ、頼んであげるわ
拓 ……
里伽子 あのね、パパに会ったら、あたし話すつもりでいるの。
里伽子 パパと一緒に暮したい、東京に戻りたいって……
アナウンス みなさま、当機はこれより羽田空港へ着陸いたします。
里伽子のあとを追って東京を歩きながら、ぼくは、またも里伽子にやられたと思っていた。けれど、あのままひとりで東京へ行かせることは、できなかったんだ。
成城 午後
里伽子(OFF) ほんとは南口のほうが桜並木もあってすごくいいの。こっちは成城の下町なの
拓(OFF) へえ
里伽子 パパの両親の家が、こっちのほうにあったの。昔はここいらも畑だったって
拓 ぼー
里伽子 そこに業者がマンションを建てるっていうんで、一番いい部屋をもらったの
拓 ふーん
里伽子 4人家族でも広かったから、パパひとりで淋しがってると思うんだ
拓(OFF) ほんじゃあ、武藤がいったら喜ぶじゃろう
里伽子 久しぶりだわあ
愛人(OFF) どなたですか
里伽子 あのう……武藤さんですか?
愛人(OFF) そうですけど……
里伽子 あのう……、パパはいますか
里伽子の父(OFF) …里伽子か。降りてくから、ちょっとロビーで待ってなさい
里伽子の父 よう。連絡なしに来るからびっくりしたよ。ひとりで来たのか?
里伽子 高知のボーイフレンドよ。ゴールデンウィークだから一緒に遊びに来たの
里伽子の父 そうか。里伽子が世話になってるね。どこかでお茶でも飲もうか
里伽子 家も見たいわ。あたしの部屋、どうなってるの?
里伽子の父 じゃ、あがろうか。君……
里伽子の父(OFF) 悪いけど、ここでちょっと待っていてくれないか
拓 はあ……
ふう……
里伽子の父 杜崎くん。里伽子のわがままにつき合ってくれて悪かったね。こっちの宿決めてないって聞いたんで、今連絡してのホテル、取っておいたよ
それと、里伽子がお金を借りてたそうだね。どうもありがとう
あいつ、かわいそうだな、と、ぼくは心から思った。
ホテルの部屋 夜7時頃
拓(OFF) あ、もしもしお母さん?
拓の母(OFF) ああ拓? そろそろ夕飯にするき、早よう帰って来なさい
拓 いや、ちょっとわけかあって帰れんようなった
拓の母(OFF) ほんなら先に食べゆうき、あまり遅うならんぞね
拓 今ぼく東京におるが
拓の母(OFF) 東京? 何言いゆう。朝おったやんか
拓 けんど、飛行機でバーッと東京まで…
拓の母(OFF) ええー?
拓 ある人のつきそうじゃき
拓の母(OFF) ある人っち誰ぞね!?
拓 とにかくあさってもどるき
拓の母(OFF) ちゃんと言うてみなさい!
ドン ドン!
拓 あ! 帰ってから話すき。ほなら切るで!
拓の母(OFF) ちょっと拓!?
拓 武藤……
拓 どうしたがで
里伽子 ここに泊まるわ。請求書はパパに行くんだから、あたしにも権利あるでしょ
拓 おい……
これはドラマより、まだひどい……とぼくは思った。
拓 武藤、ビール飲むか
飲めんがか? ぼくら学校に内緒で飲んだりするがぞ
里伽子 コークハイ、作って
学園祭のときなんか、友達の家で飲んでた……
里伽子 パパはね、この連休にオトモダチと旅行に行くんだって
拓 あ、そうか。連休やもなァ。ははは
里伽子 あたしの部屋もね。すっかり模様変えされてたの。壁紙なんか、濃いグリーンなのよ
あたし、グリーン大嫌い!
拓 うん、そうや。グリーンはようない
里伽子 お鍋なんか全部ホーローよ!! ばっかみたい。今どきホーローなんかはやらないわよ
あたしね、杜崎くん。ママたちがもめたとき、ママがバカだと思ってたの
見すごしてればいいのにワーワー騒ぐからパパも意地になっちゃって、離婚みたいなカッコ悪いことになっちゃって
里伽子(OFF) あたしや弟も友だちと別れて転校しなきゃならなくなって、ひどいって…
拓 うん……
里伽子 あたし、パパの味方のつもりだった
でも、パパはあたしの味方じゃなかったの
拓(OFF) 味方って、おまえ……
里伽子 あたしって、かわいそうね……
拓 おまえもかわいそうじゃけんど、帰ったらお母さんに優しゅうにしちゃれよ。母親への抗議みたいに、わざわざ下宿までしてからに
里伽子 下宿したのは、ママの実家に三人も居候するのは悪いと思ったからよ。意地はってわけじゃないわ
拓(OFF) なら、えいけんど
里伽子 杜崎くんに関係ないわ
拓 ふう……
拓(OFF) いて……
拓(OFF) ぼくだってごっつうかわいそうやんか
こん こん!
里伽子(OFF) 杜崎くん!
拓(OFF) ん~~
里伽子(OFF) 早く起きて
里伽子 ようやく起きたのね。トイレも洗面所も使えなくて困っちゃった。一階のトイレまで行ったのよ
拓 わりィ……
里伽子(OFF) ねえ、30分くらい部屋をでててくれない? あたし、ちょっと人と会うから、準備したいの
拓 親父さんか?
里伽子 こっちの高校の友達よ。さっき電話したから、懐しがって、すぐホテルまで会いに来てくれるって
拓 へえ、よかったじゃんか
里伽子(OFF) 急いでしたくしなきゃ、シャワー使いたいの。早く出てってね
大学は東京にしようとぼくが決めたのは、このときだったかもしれない。
里伽子がなんとか気を持ち直そうとしているのが感じられて、ほっとしていたからだろうか。
里伽子 ちょうどよかった。今、友だちが着いてロビーから電話があったとこなの
拓 そうか
里伽子 じゃ、行って来ます。
里伽子 あ。鍵どうしよう。杜崎くん、外出する?
拓(OFF) 部屋で寝るき、かまわんちゃ
里伽子 ほんと? 悪いな
拓 気にせんと、楽しんで来いや
里伽子 うん
リリリリーン リリリリーン
拓(OFF) はい……
里伽子(OFF) 杜崎くん。悪いけど一階のティールームに来てくれない?
拓 どうしたが。財布忘れたがか
里伽子(OFF) いいから来て。助けると思って、すぐに来て
拓 さあて今度は何やろ……
里伽子 杜崎くん、こっち
里伽子(OFF) こっち、杜崎くんていうの
里伽子 心配して東京までついて来てくれたの杜崎くん、こっち、元クラスメートの岡田くん
岡田 こんちは
岡田 里伽子、もうボーイフレンドができたのかあ。なんかショックだなあ
里伽子 人のこと言えるの? あたしがいなくなって、すぐにリョーコとカップリングするとは思わなかった
里伽子(OFF) なんだかうらぎられた気分よ、もう
岡田(OFF) えー? でも里伽子のほうが美人だよ。リョーコもそう言ってる。里伽子のあとじゃ、かすんじゃうってさ
里伽子(OFF) ねえ聞いてよ杜崎くん
里伽子 ショックだと思わない? 岡田くんとは1年もつき合ったのに、別れて2か月でもう彼女ができたの。それがあたしの友だちのコよ
拓 え? まあそんなもんだろ
里伽子 ね、この人もかなりクールよね
岡田 リョーコにも連絡つけてあるんだけど、どうする? 里伽子もカレ誘って、一緒に映画行かないか? ダブルデートでさ、うん……
里伽子 行きたいんだけど──お昼にパパが来てごちそうしてくれることになってるの、ね!?
岡田 来るのがわかってから、ちゃんと計画たてたのに、残念だなあ。だけど里伽子のお母さん、ちょっとひどいよなあ
岡田(OFF) どうせこっちで受験するんだから、里伽子だけでも置いてってくれたらよかったのにさ
むりやりあっちに連れてくんだもんなあ……子供のこと、考えてないよ
拓 何が子供のことを考えろじゃ。中学生じゃないろうが
里伽子(OFF) な、なによ、杜崎くん
拓 まったく、くだらんちゃ。おまえもそっちの男も
岡田 彼、ぼくのことでやきもちやいてんのかな。悪かったなあ
ぼくはがっかりしていた。あの、いつも堂々としていた里伽子が東京では、つまらない見栄をはってあんなバカ男とニコニコ笑ってるだけのコだったなんて。
トントン
拓(OFF) 武藤……
里伽子 岡田くんがね、ぼくは気にしてないからって、伝えてくれって
拓 ……!
里伽子 ほんとにあの人ってバカね。つき合ってる頃はよく気のつく優しい人だと思ってたんだけど
ふふっ……。最初は見栄はって杜崎くん呼んだんだけど、杜崎くんが帰ってふたりきりになったとたん、バカバカしくなっちゃった。ほんとにくだらないわよ。彼も、あたしも
拓(OFF) まあな、あいつに親しいのができたき、ショックながはわかる
里伽子 わかってないわね、杜崎くん
里伽子(OFF) あたしがショックなのはね、岡田くんがもう全然他人みたいな感じだったこ
里伽子 あの人、自分のことしか喋らないの。高知はどうだ、なんて聞きもしないの。でももとからああいう人だったのよ。ようするにあたしが気づかなかってだけ
拓 へえ……
里伽子 今夜はおばさんとこに泊まるわ。考えたらふたりでひとつの部屋に泊まるのもヘンだし……。あした空港のカウンターで会いましょ
里伽子 ひどい東京旅行になっちゃったわね
里伽子は、まるで30分で一気に大人になったみたいだった。
校内 5月 昼
里伽子(OFF) え? 裕美、どこで買ったの
小浜 里伽子も買うが?
里伽子 だって980円なら安いもん!!
連休がおわって学校が始まると─
─里伽子は何事もなかったようにぼくを無視し─
今までどおり小浜裕美とだけは仲がよかった。
清水 誤解せんと聞いてや
あんたのこと心配しゆうわけじゃないけんど、このままじゃとひとりぼっちになってしまうきね。まあ、わけはあるろうけんど、もうちっと……
里伽子 放っといて!
7月 昼
拓(OFF) おまえ、期末はどうじゃった?
松野 全然いかんかった。夏休み、大阪の予備校行ってくる
拓 ふーん、合宿か
松野 気分もかわってえいろう
松野 なあ
拓 あ?
松野 変なこと聞くけど、怒りなよ。おまえ、連休のとき、武藤と旅行に行ったろう
拓 ああ。行ったや。……どうして知っちゅうんじゃ?
松野 どうしてち……けっこう噂になっちょったがぞ。おまえ、気がつかんかったがか?
拓(OFF) 気がつかんかった
松野 おまえらしいな
泊りがけの旅行やゆうき、面とむこうてひやかすがはヤバイやんか。ウラでひそひそ言いよったがぞ
拓 あのな、どういう噂しなっちょったか知らんけど武藤は父親に会いに行ったばあのことじゃ
松野 それは聞いた
拓 聞いたって、誰に。小浜にか
松野 小浜?
松野 なんで小浜な。武藤本人やき
拓 え?
松野 たまたま図書館で会うて、帰りが一緒になったき、聞いてみたら
橋の上 5月 午後
里伽子 またその話なの!? たしかに杜崎くんと東京に行って同じホテルに一泊したわよ。それがあなたにどういう関係があるの!?
松野 ……おれ……
武藤のこと、好きやき……
里伽子 ……あたし……
高知もきらいだし、高知辯喋る男も大きらい! まるで恋愛の対象にならないし、そんなこと言われると、ゾッとするわ!
拓(OFF) ゾッとするちゅ言うたんか
松野 そうや。けっこう、くるものがあったぞ
拓 おまえ、成績おちたんはそれが原因かや
松野(OFF) 夏休み中に、気分変えるき
拓 ゾッとするちゅうは、あんまりぞ
松野 杜崎……!
拓 ちょっと話があるき、来いや
里伽子 なによ
里伽子 どうしたの
あんまり学校で話しかけないでね。めだつから
拓 おまえ松野に、東京で同じホテルに一泊したちゅうて、言うたがやとな
里伽子 言ったわよ。
拓 押しかけてきたがは、おまえじゃろう。へんなこと言われて、迷惑しゆうがは、こっちぞ
里伽子 なによ……
拓 おまえのおかげで、えらい迷惑したがぞ。最低じゃおまえは
里伽子 ずいぶん友だち思いじゃない
里伽子 もういいでしょ
まったくあの東京旅行は、里伽子にとってもぼくにとっても、いいことなしの結果だった。
校内 11月 午後
秋になり……
里伽子はあいかわらずクラスから浮きっ放しで……
ガッシャン
しかし成績だけはますますあがっていった。
そして、高校生活最後の行事である学園祭のとき……
女子Ⓐ ねえ、今日も来てないが。あの子
女子Ⓑ あしたのダンス天国も、きっとサボる気や。よさこいの練習、一ペンも出んかったし
女子Ⓐ バカにしゆうがやろ
女子Ⓒ 行事にも参加せんと、勉強してええ成績とろうなんて、根性悪すぎん?
女子Ⓑ みんなで意見せないかんね
女子Ⓐ あした呼び出しかけようか?
客 あの……
女子ⒶⒷⒸ いらっしゃいませ!!
女子アナウンス 実行委員会よりお知らせます。本日最終日はダンス天国ですので、後片づけが終わったクラスから校庭に集合して下さい。くり返します。本日最終日はダンス天国ですので、後片づけが終わったクラスから校庭に集合して下さい
里伽子(OFF) それで言いたいことはおしまいなの? あたし、急ぐんだけど……
女子Ⓐ ちょっと待ちや。何言う急ぐっち…。あんた! クラスの和ということ、どう思いゆうが
里伽子 クラスの和って何よ。政治家みたいなこと言わないでよ。バカらしい
女子Ⓑ 自分のことばっ考えちょって、それで世の中、えいと思っちゅうがかえ?
里伽子 自分のこと考えちゃいけない世の中ってどういう世の中よ! 世間があたしのこと考えてくれるの? 自分のこと考えるの、あたり前よ
女子Ⓒ けんどあんた! 男子に興味ないふりして媚びたりせんとってよ。柳田くんに色目つこうたりして!
里伽子 やなぎだ?
誰それ。見たことも、聞いたこともないわよ。ここに連れて来なさいよ。あんたなんか大きらいって言ってやるから
清水 もうやめちょきや
あんたの内申にキズがつくで。こんなヤツのためにあんたが泣くことないちゃ
清水 あたし、あんたのこと買いかぶっちょったがかも知れんちや
里伽子 杜崎くん……。いつからいたのよ
拓 あ? これ捨てに来たら、たまたま声がきこえてきたきな
拓(OFF) おまえはえらい。あれだけみんなに囲まれたち、一歩も引かんもんにゃあ。つるしあげよったほうが涙ぐんじょったもんにゅ
拓 たいしたもんじゃ
パアン!
里伽子 バカッ! あんたなんか最低よっ!
松野(OFF) おい
拓 おう……
松野 武藤が、なんか走っていたったぞ。泣きよったみたいやけんど
拓 え……ああ、今、さっきつるし上げにあいよった。ウチのクラスの女子らに。あいつ、学園祭サボリよったき
拓(OFF) けんど、あいつのほうの反撃がごっつうてな、つるし上げにならんかった。さすが武藤、気が強うてたいしたもんぜ
松野 おまえ、止めんかったがか
拓 止めたって、出しゃべりとか言われるのがオチやしな。ちっとはコリたろうよ
拓(OFF) とにかく、ナマイキじゃ、あいつは
松野 おまえ……バカや
あしたになればまた松野と今までどおり話ができるだろう、とその時は思っていた。
しかし、松野とぼくは、それ以来一度も口をきかないまま、……卒業した。
そして、里伽子は地元․高知大学へ……松野は京都、ぼくは東京の大学へと……別れていった。
高知空港
アナウンス みなさま。当機は、高知空港に到着いたしました。本日のご搭乗……
松野 やあ、杜崎
拓 ……松野
拓(OFF) わざわざ迎えに来てくれたがか
松野 ああ。免許、先月取ったばかりやき
拓 京都行ってすぐに教習所かようたあ根性あるの
拓(OFF) ぼくなんぞ街に慣れるのにひと月、大学に慣れるにひと月……、バイトに慣れるのにひと月、気がついたら、はや夏休みになっちょった
松野(OFF) 東京と京都の文化圏の違いやよ。京都のほうがここと文化圏が近いき、すぐに慣れてしもうた
松野 けんど高知は人が少のうてえいでにゃ。
拓 なにしろ、何もかもこの街ひとつで片がつくがが嬉しいち。東京は便利っちいうけんどよ、移動しゆるううちに1時間ばあっちゅう間じゃけな
松野 1時間あったら、桂浜行って、散歩までできるやんか
拓 そうや。神宮球場行くのにも乗り換えやら何やで1時間や
松野 その点、京都なら1時間ありゃ、大阪でも琵琶湖でも奈良でも、ホイホイ行けるぞ
拓(OFF) ほう、なんやそっちの方がええように聞こえるの
拓 おい、寄ってくろう?
松野 まあ、今日は遠慮するわ。家族やち持ちゆうろうし。それに、あしたの同窓会出るやろ
拓 うん
松野 あ……
ずっと謝ろうと思いよった。殴った悪かったな
拓 え? あ、なんぜ。無料迎車はそのためかや。ははは……
松野 また連絡するわ
拓 ちょっと散歩せんかや。久しぶりやき
松野 あのときおれが怒ったがは、おまえがおれに遠慮しよったのがわかったきぞ。あのときまで気がつかんかった……
松野 おまえが武藤を好きやったこと
松野とぼくは、その場所で1時間すごして、それから別れた。
貸切り
拓 おい、そんなに飲むなや、山尾
山尾 ぷは─。遅いにゃ……
松野 遅いって、誰が……
山尾 遅いんじゃ……
座敷の男女(OFF) おお~なんやて~
拓 なんや?
清水 今な、山本くんが突然、告白したんよ。実は西村さんが好きやったちゅうて
拓 へえ、やるじゃん
清水 どうやら、カップル成立のようやね
山尾 よーし、おれも思い切って言うじゃおう。実はおれ、小浜裕美がずーっと好きじゃった
一同(OFF) おお~。よう言うた山尾。小浜はどうした? まだ来ちゃーせん
山尾 おれ、ずーっと思いよったが。派手な武藤のかげに隠れちょったけんど、かわいいがよ。おまえが武藤ばかり見ゆう横でな
拓 何言うちょるんじゃ
松野 あ!
ガタン
拓 見てみい! おい! トイレか!?
男その3(OFF) お~い、山尾~、大丈夫かあ
清水 武藤さん、やっぱり来んがやろか……武藤さんな、松野くんにひどいこと言うたちゅうて後悔しちょった
松野 え?
拓 いかん、完全に気を失のうちゅう。けんど、清水、きれいになったなあ
清水 ふふ おおきに。けんど、武藤さんも美人になっちょるよ。もともと美人やったけんど
拓 は?
松野(OFF) 清水な…武藤に会(お)うたがやと
拓 おらんぞ、武藤
清水 きのう、大丸のアイスクリームんとこでばったりあうてね。同窓会来いやねちゆ言うたんじゃけんど……この分じゃ、今日帰ったがかもしれんね……
拓 帰った?
拓 武藤、ひょっとして東京じゃないがか
清水(OFF) うん。あたしもてっきり高知大だと思っちょった……なんや、お母さんの手前高知大受けて、受かったんじゃけんど、内緒で東京の大学の受けちょったがやと
拓 ひょっとして、ばったり会(お)うたとたんに、きゃー、なつかしー、どおしたのー、とか、やったんか?
清水 どうしてわかるが?
拓 いや、おまえ、武藤のこときらっちょると思うたんど
清水 そうねえ……好きじゃなかった。ものすごーくきらいやった
けんど会ってみると、きらいどころか、なつかしゅうてな
清水(OFF) なーんか、席替えと同じなんよ。小学校のころは、きらいな子が隣りの席になると、絶望して学校に行きとうのうなる事あったやんか
世界が狭いき、きらいな子がそばにおるとキリキリしたがよね。存外、塾とかピアノとか、学校以外の世界があると、きらいな子のひとりやふたりどうでもようなるにね
拓(OFF) えーと、それはつまり……清水は世界が狭かったと、反省しゆうちゅうことか? それで武藤に反発したがやと
清水 それはおたがいさま。あたしも悪かったけど、武藤さんも相当世界が狭かったちゅうて、自分でも言いよったもん
女その3 きゃ~ 裕美ぃ
奥の連中 おお~~~小浜!
山尾 こはま?
小浜 え?
山尾 こ……こ……こはま……
山尾(OFF) 小浜あ~~~!
松野(OFF) おい、山尾!
拓(OFF) 落ち着け! こら!
ドタン バタッ!
山尾(OFF) 小浜あ~~~
拓 おい、はよう来んか
山尾 やっほー
拓 え? 小浜も武藤に会(お)うたがか
小浜 うん。……来たらよかったにね、里伽子
武藤(OFF) 武藤も来ちょったかと思うた
拓(OFF) そうやな
小浜 あ、そうゆうたら里伽子、東京には、会いたい人がおるゆうて、言いよったよ
拓 え?
小浜 けんど、ようわからんがよ。誰に会うが言うても、お風呂で寝る人、やと
拓 ……
清水(OFF) ねえ、久しぶりに見ると綺麗やね……お城
ライトアップでうかびあがった高知城は、ひとりで見ても電気のムダにしか思えなかったけれど、もし里伽子とふたりだったらきっと綺麗に見えるに違いなかった。
ぼくは、高校の頃に、里伽子といろんなムダ話をしたかったんだ。里伽子とこんなふうにして城を見上げたかったんだ。
里伽子(OFF) 杜崎くん、お金貸してくれない?
なあに? まるで先生みたいなこと言うのね。杜崎くんて、そんな優等生だったの? 聞いた話とぜんぜん違うわ
誰にも言わないでって言ったのに、もう松野くんにしゃべちゃったのね
杜崎くんて、男のくせにけっこうおしゃべりなのね
あたし、生理の初日が重いの。貧血おこして寝込むこともあるのよ
パパに会ったら、あたし話すつもりでいるの。パパと一緒に暮したい、東京に戻りたいって……
ここで泊まるわ。請求書はパパにいくんだから、あたしにも権利あるでしょ
あたしの部屋もね、すっかり模様変えされてたの。壁紙なんか濃いグリーンなのよ
あたしはパパの味方のつもりだった。でも、パパはあたしの味方じゃなかったの
あたしって、かわいそうね……
ほんとにくだらないわよ。彼も、あたしもひどい東京旅行になっちゃったわね
ずいぶん友だち思いじゃない。もういいでしょ
バカっ!あんたなんか最低よっ!
里伽子 ふふっ。東京にね、あたし会いたい人がいるんだ
誰か、っていうとお……
その人はね、
お風呂で寝る人なんだよ
吉祥寺駅 9月 昼
ああ、やっぱりぼくは好きなんや……そう感じていた。
主題歌
海になれたら
詞/望月智充
曲/永田 茂
歌/坂本洋子
真っ白な夢 目賞めて気づいた
誰もいない波間に
ゆっくりと身を任せてただよえば
思うままの私になれる
傷つかず強がりもせずに
おだやかな海になれたら
いつかきみに好きと告げるよ
言葉にする気持ちもわからずに
部屋で泣いていた
私にさよなら Good-bye
飛ぶ鳥のようにかわらない
あたたかな海になれたら
どんなときも会いに行けるよ
遠すぎた道 灯りをありがとう
ひざを抱いていた
時間にさよなら Good-bye
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